白内障手術後の
メガネの役割
白内障手術後の
視力矯正について
眼内レンズと眼鏡
日本における白内障手術は、年間約165万件(2021年NDBオープンデータより)行われております。白内障の特徴は皆様ご存じのように、目においてカメラに例えるとレンズの役割とピント調節の役割をこなす水晶体が加齢とともに濁りはじめ弾力が失われて行くことです。これにより、物が見えづらくなったり、近くにピントが合わせづらくなったりします。
これらを解消するためには、白内障手術により、水晶体を摘出し、代わりとなる眼内レンズを眼の中に入れることが一般的ですが、この眼内レンズにおいて近年ではいろいろなタイプが登場しており、ご自身の保険診療割合で受けることのできる単焦点眼内レンズ、保険診療+差額レンズ代と追加検査費用などを支払う選定療養で受けられる多焦点眼内レンズなど、多くのタイプから選べるようになっております。
単焦点眼内レンズを使用する際は、保険診療でまかなわれ、保険割合にもよりますが比較的安価に受けることが出来ますが、焦点が1つしかないため、眼内レンズで合わせた距離以外を見る際には、メガネもしくはコンタクトレンズが必要となることがほとんどです。例えば、いままで近視でメガネを使用されていた方でしたら、メガネへの抵抗感は少ないと思いますので、単焦点眼内レンズの度数は近くが見えやすい度数に合わせ、遠くを見るときだけメガネを使用したり、今まで使用している近視のメガネの度数より弱くなるよう眼内レンズの度数調整を行い、薄く軽い遠近両用のメガネを使用したりします。
逆に遠くを見る際にメガネを必要としなかった方は、眼内レンズの度数を遠くが見えるように合わせ、近くを見るときだけ室内用の中近メガネやデスクワーク用の近近メガネ、老眼鏡などを使用します。このように、白内障手術前の見え方を参考にして単焦点眼内レンズ度数調整をすることが一般的です。
多焦点眼内レンズは、その種類にもよりますが、遠くから近くまで見えるようになるタイプが主流で、白内障術後は、よほど近くを見る、細かい作業をする、細かい文字を読む、といったこと以外はメガネやコンタクトレンズを必要としない生活が期待できます。欠点としては費用が比較的高額になること、また、見え方の質は単焦点レンズよりも劣るため、人によっては不具合と感じたり、まぶしさを強く感じたりすることがあります。
最近では見え方の不具合やまぶしさを改善した多焦点眼内レンズも開発されておりますが、このレンズを使用した際には、近くを見るためにメガネを必要とすることがあります。これら多焦点眼内レンズにおいては、見え方を含め手術を受ける眼科でよく相談をされることをお勧めします。また、眼の状態によっては多焦点眼内レンズを使用することが出来ないこともあります。
乱視と眼内レンズの見え方
乱視という言葉を聞いたことがあると思いますが、メガネで矯正できる乱視は正乱視と分類されるものになり、ここでは正乱視を念頭に説明させていただきます。まず、乱視がない眼と乱視のある眼の違いを簡単に説明しますと、乱視のない眼はサッカーボールのようなきれいな球体をイメージしてください。この球体をレンズとすると、レンズを通る光は一点で焦点を結びます。
そのため、正四角形のものを見たときに、拡大縮小はあるものの形は正四角形のまま見ることが出来ます。
それに対し乱視は、ラグビーボールをイメージしてください。ラグビーボールをレンズとすると、縦と横ではカーブの曲率が異なるためそれらの方向から光がとおると、縦の焦点と横の焦点2つの焦点ができます。このレンズを通してみたとき、正四角形のものが長方形や角度によってひし形に見えてしまう、これが乱視の見え方となります。
メガネの場合、検査結果に応じて乱視を矯正いたします。これは、単焦点眼鏡であっても遠近両用のメガネであっても一般的に行われます。これに対し眼内レンズの場合は、多焦点眼内レンズでは乱視矯正をした方が見え方の質が高まるとされており、単焦点眼内レンズにおいては、軽い乱視であれば逆に矯正しないことで、矯正した場合より見え方の質は劣りますが、見える距離がひろがり多少使い勝手がよくなります。このように、使用する眼内レンズや見え方によって選択肢が異なってまいります。
これまでご紹介させていただいた通り、近年では、保険診療、選定療養で認可された様々な眼内レンズが開発されております。ご自身の眼の状態、生活スタイルに合わせた見え方、費用など、眼科医の先生によく相談されることをお勧めします。
物がダブって見える「サギングアイシンドローム」
白内障手術を受け、それ以前より見え方が改善されたことにより気づく「サギングアイシンドローム」という症状が近年話題になっています。これは加齢性斜視ともいわれ、普段は両眼で1つのものを見ているわけですが、加齢に伴い眼球を覆うプリーと呼ばれるコラーゲン組織の変性により、両眼で1つのものを見ているつもりでも左右の眼の視線を合わせることが難しくなりダブって見えるという症状です。この症状は手術前からあったとしても、白内障の原因となる水晶体の混濁による見え方により気づかず、術後に気づくといったことがあります。このような症状がみられた時には、ダブって見える見え方を一つに見えるよう調整するプリズムメガネを使用することで改善が期待でき、どの程度のプリズムをメガネに組み込むかは、お近くの眼科でしっかり検査いただき、メガネ処方を受けるようにしてください。また、プリズムメガネで改善できない場合は手術などにより改善することもありますので、この点においても眼科で相談されることをお勧めいたします。